この記事は『ひぐらしのなく頃に業・卒』祟騙し編・祟明し編のネタバレを含みます。
祟騙し編で大石が発症した直接の理由は、沙都子によるH173の投与です。さらに沙都子は北条家の惨状について嘘をつき、梨花が祟りを命じる黒幕だと思い込ませました。薬による発症と、梨花へ標的を向ける偽証は別の働きです。長年事件を追ってきた大石の疑念を、沙都子はこの二段階で利用しました。
大石はもともと雛見沢を疑っていた
大石は毎年続く怪死事件を偶然とは考えず、園崎家を含む御三家の関与を疑ってきました。その見方には、現実の不審点を拾う捜査官としての鋭さがあります。一方で、先入観から村人へ強く当たり、圭一たちの不安を煽る場面もありました。
つまり大石の中には、発症時に膨らませやすい疑念がすでにあります。御三家が秘密を隠している、祟りは人間が作った犯罪だ、自分が暴かなければ終わりません。通常なら証拠と手続きを通して扱う考えが、症状の進行で「犯人は決まっている」という確信へ変わったのでしょう。
旧作で発症しなかった人物を選ぶ意味
旧作の大石は梨花たちと衝突することがあっても、皆殺し編や祭囃し編では惨劇を止める側に加わります。だから彼の暴走は、梨花の経験則を壊すうえで強烈です。仲間になり得る大人まで敵へ変わるなら、過去の攻略法は信用できません。
沙都子の目的は単に被害者を増やすことではなく、梨花へ「誰を信じても無駄だ」と学習させることでした。圭一やレナだけでなく、村の外から来る警察官まで発症者にできます。この選択は黒幕が従来の自然発症を待っていないことも示します。
大石が北条家を信じたことを逆手に取られる
祟明し編では、鉄平が大石へ相談し、北条家に来てもらいます。大石が見るのは、圭一たちの訴える虐待とは違う家庭の様子です。そこで沙都子の側の説明を信じることが、村への疑いを強める方向につながってしまいます。
大石が来れば、事件を止めてくれるかもしれません。旧作を知っていると、こちらにもその期待があります。ところが今回は警察官が惨劇を起こす側になります。助けを求めるはずの相手が襲ってくるのだから、梨花にはたまったものではありません。
鉄平への疑いと沙都子の演技
圭一たちは沙都子を救おうと動きますが、沙都子は鉄平には村からいじめられていると説明しています。同じ沙都子を助けたい人たちが、違う話を聞かされて互いを疑います。この食い違いが祟明し編の厄介なところです。
大石から見ると、村ぐるみで鉄平を悪者にし、北条家を追い詰めているように見えます。そこへ発症による疑心暗鬼が重なります。実際には人を助けようとしている圭一たちの行動まで、陰謀の証拠として受け取ってしまうわけです。捜査への熱意だけを見ていても、この認識のすれ違いは説明できません。
捜査への執念だけでは説明できない暴走
梨花へ向かわせる直接の仕掛けは、祟明し編の北条家での偽証です。沙都子は鉄平と圭一が倒れる惨状を利用し、意図的な悲鳴で大石を呼び込みます。そして圭一の行動に梨花が関わっていると嘘を伝え、大石に祟りの黒幕は梨花だと誤認させました。
H173を使っただけで、薬が梨花を犯人として教えるわけではありません。沙都子は発症した大石へ偽の手掛かりを与え、捜査の矛先を梨花へ向けています。犯人を突き止めたつもりの大石が、実際には犯人の説明を信じています。この逆転が怖いところです。
大石が以前から園崎家を疑っていたことと、今回H173を投与されたことは別です。捜査に熱心だったから自然に同じ事件を起こした、と読んでしまうと沙都子の介入が抜け落ちます。
『業』で暴走の理由が見えない段階では、大石自身の裏切りも疑いたくなります。でも『卒』で裏側を知ると、捜査を続けてきた人物が、その執念ごと利用された事件に見え方が変わります。私は、犯人を追うはずの大石が犯人の狙いどおり動かされる点に、この編の嫌な後味を感じます。
結論|大石の執念を梨花への凶器へ変えた
大石の発症を引き起こしたのはH173で、梨花へ向かわせたのは沙都子の偽証です。事件を解決したい焦りと御三家への疑念は、その嘘を受け入れてしまう背景になったと読めます。発症原因と標的を決める誘導を分けることで、沙都子の介入が見えてきます。
祟騙し編が示したのは、信頼できる人物の一覧を覚えるだけでは惨劇を越えられないということ。薬剤で誰でも発症者にされるなら、梨花が見るべきなのは人物の性格ではなく、不自然な症状を作る実行者です。その視点へ届かせないことこそ、沙都子の狙いでした。


